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それでもボクはやってない [映画関連]

2007年 周防正行監督

あの「Shall we ダンス?」の周防監督の10年ぶりの作品。それだけで話題性たっぷり。しかも今回のモチーフ、裁判はこのところ現実の裁判って一般の感覚からすると大分おかしいらしい、という話がじわじわと出てきて、多くの人がちょっとは気になるネタだと思う。

周防監督ってこの手の、人々のアンテナに引っかかる題材選びが本当に上手い。修行僧(「ファンシィダンス」)、学生相撲(「シコふんじゃった」)社交ダンス、そして裁判。どれも存在自体はマイナーでもないけど、内実はみんな知らない、そして内部では一般の世界とはちょっと違う価値観がありそうなことばかりだ。

周防監督は現実の裁判のことを知って驚いたのだそうだ。だからそれをそのまま映画にした。だからこの映画の見所は、映画を通して裁判のことを知って驚くことだそうだ。たしかにね。
そういう意味ではちょっとずるい題材のような気がしないでもない。もともとの素材がものすごくおいしいんだから。しかしいくらおいしい素材でも調理の仕方では台無しになってしまうもの。この映画がとてもリアルで素材の味がしっかり伝わってきて見ごたえがあったのは、周防監督の素晴らしさであろう。

普通の人が、突然裁判という馴染みのない世界に放り込まれる。その世界は非現実的だが被告となる主人公やその周囲の人々の心情は実にナチュラル。みんな突然のことにとまどいつつも裁判を闘ってゆく。主人公の友人が駅で目撃者探しをするときに看板(?)を着けるように言われて一瞬見せる「コレ着けるの?」って顔がリアル。
主人公も罪を認めれば話は簡単だと何度言われても罪状を否認するが、当初は「俺はやってない!!」と声高に主張するというより、やっていないものは当然やっていないと言う、というごくごく普通の感覚で否認しているのだ。それだけなのにあれよあれよと言う間に被告人にされてゆく。ホラーだ。

主人公の加瀬亮が本当に素晴らしい。この人は印象に残らない役者でありたいと語っていたが、そういう"普通の人である"と言う個性がこんなに生きる映画も少ないだろう。そして裁判官や警察官の言葉に対する驚きや落胆が表情から痛いほど伝わってくる。加瀬亮のアップはどれも切ない。もたいまさこの母親や友人の山本耕史、そして検察の尾美としのり、警察官の大森南朋もよかった。 私は実際の検事の話は聞いたことがないのに、尾美としのりの事件をさっさと処理して流すような口調にリアルさを感じてしまうのはなぜだろう。
一方弁護人の役所広司と瀬戸朝香はちょっといかにもドラマの登場人物という風情で華がありすぎではあったが。

この主人公は、痴漢冤罪の被害者としてはラッキーなほうだと思う。たまたまツテで見つかった弁護士がなんだか優秀そうだし、同じ痴漢冤罪で裁判を闘っている人に助けてもらってビデオも作ったり。現実にはここまで戦える人は少ないんだろうなあ。

裁判は正義の裁きが下される場所ではないことは私も知っていた。古来の裁判は裁判官の前で原告と被告が剣を持って戦ったとも聞く。つまり裁判というのは戦いの場である。
でもその戦いもフェアに行われるのは難しいらしい。疑わしきは罰せずというのがこの国の方針であるはずだが、裁判官は国家権力である警察や検察を敵に回したくなくて無罪判決は出しにくいのだとか。警察や検察が本当はフェアでなければならないはずなのだが、現実には公正さよりも国家権力であるという側面の方が強いらしい。そこが問題。
しかし本作の主人公もそうであったように、普通は警察や検察以上に、裁判こそが公正な場だと思っているものだ。どんな試合の場でも審判はフェアでなければならないのだから。警察や検察が権力で、裁判がその権力におもねっているとしたら、一般人に勝ち目はないだろう。そんな社会は怖すぎる。

でもそんな怖い世界に、ごくごく普通の一般人が、とっても簡単に放り込まれてしまうのだ。


とても大きな問題を扱った社会派の映画であるが、殺伐とした空気は押さえられ、ユーモアも忘れないのはさすが周防監督というべきだろう。小難しいところもなくすんなり入っていける。ラストは賛否あるようだが私は納得。面白かった。


ところで現役弁護士が語る、駅で痴漢に間違われたときのベストな対処法は腕を振り切って逃げることだそうです。
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コメント 9

Sho

なんかつまらなそうだなあ・・と思っていたら、あれよあれよと言う間に
すごく人気が出ていた映画でした。
やはり興味深いです。
役所広司と瀬戸朝香に関しては、なるほどそうだろうなあ・・と思いました。
なんとなく可笑しいです。
とても見てみたくなりました。
by Sho (2008-07-14 06:34) 

u_yasu

こんばんは、お邪魔します。

周防監督、本当に上手いですよねぇ〜。
by u_yasu (2008-07-14 22:39) 

ken

悔しい。
僕が観ていない映画のレビューなので読めませんw
近い将来観て、出直します。
by ken (2008-07-14 23:26) 

DSilberling

こんにちは。
周防監督は、裁判を傍聴し続け、どう考えても無罪の人が有罪になる日本の裁判システムに驚いたそうです。
疑わしきは罰せずという裁判の大原則が守られていない問題を映画を通して伝えたかった。だからあのエンディングなんですね。監督が感じたことをお客さんにも感じて欲しい。
こういう映画が作られヒットする日本の映画界は素晴らしいです。でも日本テレビアカデミー賞では受賞できない。悲しい現実でもあります。
by DSilberling (2008-07-15 00:21) 

satoco

>Shoさん
たぶん見て面白かった人がたくさんいて人気が出たんだと思います。
興味深い内容ですので見てみてください。
nice! ありがとうございます。

>u_yasuさん
本当に上手いですね~。こういう映画を見ると気分がいいです。
nice! ありがとうございます。

>kenさん
結構話題にもなったし、kenさんもどこかの流れてごらんになる機会がありそうなジャンルかとですよね。お時間あったらぜひ。

>DSliberlingさん
監督の伝えたいことは十分伝わった気がしますね。私もこの映画がヒットするのは喜ばしく感じます。
そして日本テレビアカデミー賞の権威ってどうなのと思っているのですが、結構権威があるのでしょうか。一映画ファンとしてはキネ旬ベストテンとか報知新聞とかの方が注目しているのですが。
nice! ありがとうございます。
by satoco (2008-07-15 02:05) 

noel

この映画の加瀬さん上手かったですね。
いや、キャスト全てが良かったです。
知らないことが多すぎてこの映画には考えされられました。

by noel (2008-07-15 14:50) 

satoco

>noelさん
加瀬さんすごくいいですよね。
考えさせられる映画でした。裁判員制度になったらどうなるんだろう、とか考えちゃいました。
nice! ありがとうございます。
by satoco (2008-07-15 23:02) 

ken

最後の1文が絶妙。satocoさんはこういうのが巧いですね。
確かに周防監督は目の付け所がいい。
知ってるようで知らないジャンルって、実はすごく興味を惹く題材ですもんね。
彼は企画力も素晴らしいんだな。納得。

by ken (2008-09-01 02:41) 

satoco

>kenさん
ありがとうございます。シメにはいつも力入れてますが入れすぎて変になることもしばしば....。

by satoco (2008-09-02 01:48) 

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それでもボクはやってない(ナニミル?~DVD日記~ 2008-09-01 02:44)

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